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広島高等裁判所 昭和25年(う)390号 判決

被告人

松本小一

外一名

主文

原判決中右被告人両名に関する有罪の部分を破棄する。

本件を山口地方裁判所岩国支部に差戻す。

理由

弁護人丸茂忍の論旨第一点(趣意書及び補充書の各一)について。

(イ)  原審相被告人梯木嘉一、同田村英治に対する、併合前の第一回公判(昭和二十四年九月三十日)において、検察官から証拠として、(1)山本アヤ子外十三名の証人、(2)被告人梯本、同田村に対する司法警察員の供述調書、検察官の供述調書、少年保護司の少年調書及び裁判官の調書、(3)送致決定、(4)山本アヤ子外七名提出の各盜難届、(5)重長雋三外二名提出の各申述書、(6)学籍照会書、(7)牛草履外九点の証拠物、弁護人から梯本松蔵、岡田歌一、松本小一、沖本秀吉の各取調をそれぞれ請求したのに対し、原審裁判官は右各書類全部を取り調べる旨決定し検察官が右各書類を順次朗読して証拠物(については証拠として取り調べる旨の決定をしていないが)は各これを展示し、もつて西広伊太郎外五名を採用して次回に取り調べる旨の決定を宣したことは、右第一回の公判調書の記載によつて明らかであり、右証人は昭和二十四年十月二十一日の(併合後の)公判において取り調べがなされたことは、同日の公判調書の記載によつて知られる。しかして右後者の公判調書の記載によれば、被告人松本小一、沖本秀吉に対する本件と同梯本嘉一、田村英治に対する事件とを併合審理することとし、被告人松本、沖本関係においても検察官から前記九月三十日の梯本、田村の公判におけると同様の証拠の申出(但し前記(4)(5)の盜難届及び申述書と前記(2)の書類との申請順序前回と相反す)があり、裁判官また前記同様の証拠決定をし、検察官は既に提出済の前記各書類を順次朗読し、証拠物件はこれを展示した後被告人四名全部の関係として前記西広伊太郎外五名の証人の取調べをしたことが認められる。

右に提出せられた各書類中、前記(2)の被告人梯本嘉一、同田村英治に対する司法警察員並びに検察官の各供述調書(但し検察官の田村英治に対する供述調書を除く)少年保護司の少年調書及び裁判官の調書はいずれも被告人梯本、同田村の本件訴訟法第三百二十二條及び第三百二十六條(これ等を証拠とすることには被告人等は同意している)の規定により証拠とすることが出来るものであることは、その記載内容を一読して明瞭なところである。従つてこれ等の証拠は同法第三百一條に従つて、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければこれを取り調べてはならないのである。

原審がこれ等の証拠と前記(4)の各盜難届、(5)の各申述書、(7)の各証拠物との間現実にどのような順序で取り調べをしたかは併合前の前記九月三十日の公判調書中「検察官は右各書類を順次朗読し証拠物はこれを展示し、各盜難届及び申述書は裁判所の許可を得てその謄本を提出した」旨の記載、併合後の十月二十一日の公判調書中「山本澄夫作成に係る申述書を朗読して裁判官に提出し、既に提出済の各書類を順次朗読し、証拠物件はこれを展示し」との記載、検察官の前記申請の順序、記録に編綴の右各証拠の順序(併合前の第一回公判調書の次には前記盜難届や申述書は編綴してなく被告人松本、沖本の簡易裁判所での公判調書の次に編綴してある)が、それぞれまちまちであるから必ずしも明瞭でないが、右証拠自体の記録に編綴の順序から見て一応前記(2)の各調書は同(4)の盜難届や(5)の申述書よりも先に取り調べられたのではないかと考えられるのであるが、それは別としても、少くとも前記西広伊太郎外五名の証人の取り調べがなされる前に、前記(2)の自白調書の取り調べがなされたことは、記録上一点の疑もないところである。そして右西広伊太郎等の証人が本件犯罪事実に関する証拠であることはいうまでもない。しからば原審は右西広証人等の取り調べをした後でなければ前記(2)の自白調書を取り調べてはならないのにかかわらず、これらの証人尋問前に右調書の取り調べをしているのであるから、その証拠調手続は刑事訴訟法第三百一條に反する違法のものであるといわねばならない。

(ロ)  もつとも右自白調書はいずれも被告人松本小一、沖本秀吉に対する自白調書ではなく、同人等の原審相被告人である梯本嘉一、田村英治の自供を記載した調書であるこというまでもないところであるけれども、右自供は、被告人松本、沖本と共謀して犯罪を行つた旨及びその詳細を述べているものであり、元来刑事訴訟法第三百一條は、新刑事訴訟法のもとにおいては、一面被告人の自白偏重に陥らないようにするとともに、他面公判外でなされた自白の調書をまず取り調べることを禁止することによつて、起訴状一本主義(同法第二百五十六條末項)と相俟つて裁判官に事件についての予断を懐かせないようにすることを目的として定められた規定であるから、併合審理のもとに不可分に一体の手続として進行された本件併合後の訴訟においては、共同被告人梯本、田村の自白調書についての右手続違反は、同時に被告人松本に対する関係において同様手続違反とならざるを得ないのであつて、松本、沖本自身の自白調書でないからといつて、同人等に関する限り、右第三百一條違反はないとすることは出来ない。

(中略)以上説示の通り、原審の訴訟手続には刑事訴訟法第三百一條の違反があつて、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかな場合であるといわねばならないから、論旨は理由がある。

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